下肢静脈瘤について解説しています。
より簡単にご理解いただける「マンガで分かる下肢静脈瘤」も是非ご覧ください。
下肢静脈瘤の症状
一番多い症状は足の浮き出た血管
下肢静脈瘤で最も多い症状は、ふくらはぎや太ももの血管が「コブ」のように膨らんだり、足の細かい血管が増えるというものです。
良性の病気ですので、治療をしなくても全身の健康状態に深刻な影響をおよぼすことはありません。
しかし、自然に治ることがないため、治療を行わないと時間とともに進行します。
初期には「むくみ」や「だるさ」といった症状しか無いため、放置しておく人もいますが、進行してコブのように血管が膨らんでくると、人前で足を出すことがためらわれるようになります。
就寝中の「こむら返り」や「かゆみ」などが慢性化して、日々苦しんでいる方もいらっしゃいます。
さらに放置した場合、くるぶしが黒ずんできたり(色素沈着)、硬くなったり(脂肪皮膚硬化症)します。
もっと重症になると、皮膚に穴があき(潰瘍)出血することもあります。
下肢静脈瘤が生じるメカニズム
静脈の逆流防止弁が壊れることで発症
正常な静脈は、足にとって必要の無い血液を心臓に戻す役割をしています。
この時、血液が重力によって再び足に戻らないように、静脈の内がわには弁(静脈弁)が備わっています。
この弁は「逆ハの字」をしており、血液が下から上に流れる時は開き、逆流しようとすると閉じる、という構造をしています。
この働きから「逆流防止弁」とも呼ばれています。
下肢静脈瘤は、この弁が壊れることで不要な血液が再び足に戻ってしまう病気なのです。
戻った血液によって静脈が膨らみ、皮膚を持ち上げることでコブのように見えます。
たまった血液は酸素や栄養分をあまり含んでいないため、足のだるさやこむら返りの原因となります。栄養不足が慢性化るすと皮膚の新陳代謝が低下し、皮膚の黒ずみや潰瘍を引き起こします。
下肢静脈瘤になりやすい原因
主に4つの原因が引き金に
- 遺伝
- 立ち仕事
- 年齢
- 出産を経験された女性
1.遺伝
片方の親が下肢静脈瘤だと50%、両親ともの場合には90%の確率で子供は下肢静脈瘤を発症するというデータがあります。それだけ遺伝的な要素が大きく関係します。同じ生活環境や労働環境であっても、下肢静脈瘤にかかる人、かからない人がいるのはこういった理由なのです。
2.立ち仕事
立っている時には重力によって血液が下から上へ流れようとするので、弁には常に負担がかかっていることになります。弁への負担が長時間におよぶと、徐々に働きが悪くなり、ついには壊れてしまいます。1日10時間以上立っている方は重症化しやすいので注意が必要です。代表的な職業には教師、美容師、調理師、販売員などが挙げられます。
3.年齢
年齢を重ねるに従って、全身を構成している軟部組織(肌や筋肉などの軟らかい部分)の強度が弱くなってきます。静脈弁も軟部組織の一つですので年齢とともに老化し、逆流を防止する力が弱まってきます。こういった理由から、年齢を重ねるほど下肢静脈瘤を発症する人が増えてくるのです。
4.出産を経験された女性
妊娠時には、女性ホルモンの影響により静脈弁が軟らかくなることに加えて、胎児により中心の静脈が圧迫されるために、弁が壊れやすくなります。出産経験のある女性の2人に1人は発症すると報告されています。
上記に挙げた4項目より関連性は低いですが、肥満や便秘なども下肢静脈瘤を悪化させると言われています。なお原因は1つではなく、複数の原因が重なって発症することがほとんどです。
下肢静脈瘤の分類とその治療
『伏在型静脈瘤』と『軽症型静脈瘤』
下肢静脈瘤は、静脈がコブのように膨らむ伏在型静脈瘤と、それ以外の軽症静脈瘤に分けられます。
伏在型静脈瘤は「大伏在静脈瘤」と「小伏在静脈瘤」に分類されます。
軽症静脈瘤には網目状静脈瘤とくもの巣状静脈瘤があります。
1.伏在型静脈瘤
大伏在静脈瘤
足首から大ももの内がわにかけて走行する静脈で、皮膚に近い部分を走行するため、逆流した血液が貯留するとコブのように皮膚から盛り上がって見えます。
逆流により足の循環障害を引き起こすため、進行したものでは治療が必要となります。
小伏在静脈瘤
小伏在静脈は、ふくらはぎの後ろから膝の裏にかけて走行する静脈で、こちらも皮膚に近い表面に位置するため、余分な血液が貯留するとコブのように皮膚から盛り上がります。
大伏在静脈と同じく、逆流により足の循環障害を引き起こすため、進行したものでは治療が必要となります。
2.軽症静脈瘤
網目状静脈瘤/くもの巣状静脈瘤
皮膚のすぐ下にある細い静脈が膨らんで、青白い色や赤紫色に見える静脈瘤です。
伏在型静脈瘤のようなコブには進行しません。
治療しなくても足に悪影響はありませんが美容的に改善したい場合は、硬化療法で治療することができます。
ただし、これらの軽症静脈瘤と伏在型静脈瘤が同時に起こることがありますので、伏在型静脈瘤を合併していないか、超音波検査で調べたほうが良いでしょう。
3.その他
陰部静脈瘤
女性ホルモンの影響と妊娠による腹部の圧迫で足の付け根や太ももの裏側、陰部周辺にできる静脈瘤です。
生理になると足が重くなったり、痛くなったりすることが大きな特徴です。
出産後に症状が消える場合があるため、妊娠中は治療を行わず、出産後半年たってから症状が残る場合にのみ硬化療法を行います。
下肢静脈瘤の検査
下肢静脈瘤は超音波検査(エコー検査)のみで確定診断が可能です。
エコー検査は、皮膚にゼリーをつけて体の表面からプローブという超音波を発生させる機器を当てて静脈の状態を調べます。
体の表面に接触させるだけなので、痛みなどの体への負担が無く、レントゲン撮影と異なり被ばくもありません。
ただし、下肢静脈瘤の検査は手技に習熟した医師でないと正確な診断が難しいという欠点があります。
(当院では静脈瘤を専門とする血管外科医と臨床検査技師が超音波検査を行います。)
下肢静脈瘤の治療
簡易的に①症状を改善する治療と②根本的な治療があります。
①症状を改善する治療
圧迫療法
圧迫療法とは弾性ストッキングという着圧の強い靴下を履くことで、足から心臓へ血液の返りをサポートする方法です。
着圧が強いと言っても、単に締め付けているだけでなく、足首に一番圧力がかかり、上へむかうほど着圧が弱くなり、歯磨き粉のチューブから押し出すようなイメージで設計されています。
下肢静脈瘤では静脈内に血液がたまって膨らんでしまっています。
それを適度な圧力で圧迫することで、うっ滞した血管から血液を絞り出す感じで心臓への返りを促します。
圧迫は静脈のみに作用しますので、動脈がつぶされて血流が悪くなることはありません。
弾性ストッキングを履くことで、逆流がある下肢静脈瘤を根本的に治療することはできませんが、症状の緩和が期待できます。
硬化療法
硬化療法とは泡状にした硬化剤(ポリドカノール)を注射して、血管を固めてしまうお薬です。
特に細いクモ状・網目状の血管や側枝型の下肢静脈瘤など軽症のものを対象とし、主に見た目を改善させる効果があります。
注射のみで行え簡易なのですが、血管が固まるため一時的にしこりができ、炎症をおこすことで静脈の走行に沿って皮膚に色素沈着を起こすことがあります(消えるまでに数か月要することもあります)。
②根本的な治療
下肢静脈瘤の根本的治療は手術となります。
逆流の強い下肢静脈瘤は機械的な問題ですから、内服薬はもちろん上記の圧迫療法や硬化療法のみで逆流が起こらないように治療することはできないのです。
手術といっても、現在はカテーテルという細い管を使って切らずにレーザーや高周波で治療が可能です。
一部の症例では、逆流している血管を抜き取る手術(ストリッピング手術)が必要なことがあります。
- 逆流している静脈を塞ぐ:血管内治療(レーザー・高周波)
- 逆流している静脈を抜き取る:ストリッピング手術
血管内治療
血管内治療はカテーテルという細い管を使って、メスで皮膚を切ることなく治療することが可能です。
現在、日本国内で保険適応されている血管内治療機器は「レーザー」と「高周波」の2種類がありますが、どちらも基本的な治療原理、治療成績は同じです。
数㎜のカテーテルを逆流を起こしている静脈内に挿入し、レーザーもしくは高周波の熱で塞いでしまう方法です。
ストリッピング手術
逆流してしまっている静脈を引き抜く手術です。
血管内治療が登場するまではこの手術が主に行われていましたが、現在は血管内治療では対応できないものが適応になります。
メスで皮膚を切開して静脈を露出させ特殊なワイヤーを挿入しそのワイヤーとともに引き抜いてしまう方法で、血管内治療に比べて負担は大きくなります。
医療機関によっては入院を必要としているところもあります。
血管内治療との併用治療
血管内治療は根本的に逆流している静脈を治療できる方法ですが、一部の症例では見た目の改善を目的として治療を組み合わせることがあります。
硬化療法との併用
硬化療法を症状の改善を目的とした治療として前述しましたが、血管内治療と組み合わせて行うことがあります。
根本的には血管内治療で行いますが、カテーテルが入らないような細い血管は硬化療法で治療を行います。
スタブアバルジョンとの併用
スタブアバルジョンとは数㎜の針穴から、コブを抜き取る方法です。
皮膚切開や縫合は必要なく、血管内治療のメリットを生かして最小限の負担で行うことができます。
逆流を治療しても、大きくなってしまったコブは皮膚表面で目立ってしまうことが多く見た目の改善を目的としてこの方法で目立つコブを抜き取るのです。