下肢静脈瘤について 下肢静脈瘤について

下肢静脈瘤のコラム

下肢静脈瘤の症状

  • 2020/05/15 2020/07/27
  • 監修医療法人社団康静会 理事長 岡本 慎一 医師

下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)は、血管がふくらんで浮き出て目立ってくるのが有名な症状ですが、見た目以外にも、むくみやだるさ、足がつる、かゆみといったさまざまな症状があります。特に注意していただきたいのは、血管がコブになって浮き出ないケース。この場合は「下肢静脈瘤」の診断がつかずに、足の不快な症状は年齢のせいになったり、理由がわからないまま皮膚科や整形外科にかかっている例もあります(これを『かくれ静脈瘤』と呼びます)。

ここでは、そんなさまざまな下肢静脈瘤の症状について詳しく解説しましょう。

下肢静脈瘤の代表的な症状「コブ」

下肢(足)の静脈の瘤(コブ)という名前の通り、下肢静脈瘤は足の血管(静脈)がコブのように浮き出るのが有名な症状です。血管がグネグネ、ボコボコして目立ったり、血管がまるでクモの巣のように細い赤い糸状の血管が透けて見えて目立ったり、その静脈の浮き出方や見え方はさまざまなタイプがありますが、それらの症状は重症度、治療法にも違いがあります。

静脈瘤の血管の見え方・原因は以下の4つのタイプに分けられます。

  • ふくざい伏在型

    足の付け根からふくらはぎの内側にかけて広い範囲にコブを作るもの(ふくらはぎだけのものもある)

  • そくし側枝型

    伏在型の枝の一部分が瘤になったもの

  • 網目状

    直径2-3mmの小静脈の拡張

  • クモの巣状

    直径1mm以下の糸状の静脈の拡張

下肢静脈瘤の見た目以外に起こる症状

下肢静脈瘤の見た目以外に起こる症状下肢静脈瘤の見た目以外に起こる症状

下肢静脈瘤の見た目の症状(コブなのか、クモ状・網目状にみえるだけなのか)のお話をしました。クモ状・網目状の静脈瘤は、見た目以外にあまり症状はありません。しかし、コブになってしまっている静脈瘤(またはコブになっていく途中で、今は血管が目立っていないもの⇒かくれ静脈瘤)では、足のさまざまな不快な症状が出ます。典型的な症状は、足のむくみや重さ、だるさ、こむら返り(足がつる)、痛み、皮膚炎(湿疹)などです。

では、なぜコブになってしまう静脈瘤ではこのようなさまざまな症状が起こるのでしょうか?それは、足のなかの特定の静脈の働きが悪くなってしまっているからなのです。

下肢静脈瘤が起こるしくみ

そもそも静脈は、血液を心臓に戻すための血管です。特に足の静脈は、下から上へ重力に反して血液を戻さなければならないのです。ふくらはぎの筋肉を使うことで、筋肉が収縮して、ポンプのように静脈内の血液を心臓へと送ります

下肢静脈瘤が起こるしくみ下肢静脈瘤が起こるしくみ

このとき、いったん上に戻った血液が、重力に負けて上から下へ逆流しないように静脈には逆流防止弁が備わっています。ところが、コブになってしまうような静脈は逆流防止弁が壊れてしまっているのです。

下肢静脈瘤が起こるしくみ

こうなると、足の血液がうまく戻れずに血液の循環が悪くなり、足に老廃物がたまり、炎症が起こるのです。見た目はもちろんですが、さまざまな症状を示すようになります。

コブができる以外の下肢静脈瘤の主な症状

下肢静脈瘤で起こる、コブができる以外の主な症状について解説しましょう。

  • 足がだるい、重い、疲れやすい

    足がだるい、重い、疲れやすい

    本来、静脈を伝って心臓に返っていくはずの血液が、逆流して足の静脈や筋肉にたまってしまうことで起こります。血液中の老廃物が運ばれなくなり、疲労物質も蓄積してしまいます。症状を感じている人は、朝や午前中に比べて、夕方になると足がだるくなってくることが多く、特にふくらはぎが重だるく感じ、マッサージに通っている人も少なくありません。また、疲れがたまって足がだるくて眠れないという人もいます。下肢静脈瘤は、長年かけて進行するためこの症状に慣れてしまって自覚していないこともあります。慢性的に足の重さ、だるさがあるのが当たり前になりすぎている例です。そういう場合は、治療後に足が楽になったり、細くなることでようやく気付くこともあります。

  • 足がむくむ

    足がむくむ

    下肢静脈瘤では、逆流して足にたまった血液の水分が、皮膚の下にしみ出てむくみが生じます。特に下肢静脈瘤によるむくみはふくらはぎの内側(くるぶし周辺)や足首の後ろ側(アキレス腱の周辺)に目立つことが多いです。さらにやっかいなのは、むくみがひどくなると元々あった血管のふくらみ(コブ)が目立たなくなり一見、静脈瘤が治ったと勘違いしてしまうこともあります。これも「かくれ静脈瘤」の一種です。足のむくみは、年齢・生活習慣・肥満・内科的な問題(心臓、腎臓、肝臓、甲状腺)など、さまざまな要因で起こります。特に、ふくらはぎ全体がパンパンにむくんだり、足の甲までむくみがある場合は、下肢静脈瘤が原因ではないことが多いです。

  • 足がつる(こむら返り)

    足がつる(こむら返り)

    足の筋肉のけいれんにより、突然強い痛みとともに収縮して固くなります。「腓返り(こむらがえり)」ともいい、「腓(こむら)」すなわち「ふくらはぎ」でよく起こります。それ以外にも、足の指や太もも、すねのあたりがつることもあります。足のつり(こむら返り)は、下肢静脈瘤に限らず起こりますが、特に下肢静脈瘤では就寝中や明け方に起こることが多く、眠っていても痛みで目が覚めてしまいます。しかし、下肢静脈瘤が進行すると逆にあまり足がつらなくなるケースもあります。余談ですが、昼間につる場合は加齢や脱水、筋肉の疲労が原因である可能性が高いです。

  • 足を組みたくなる

    足を組みたくなる

    下肢静脈瘤の原因の多くは、太ももの内側にある静脈の逆流(上から下へ流れる)です。座っている時に足を組むことにより、無意識にその静脈を圧迫し、逆流を止めようとしてしまいます。よく、足を組みたくなるのは「骨盤がゆがんでいるから」という理由を耳にしますが、医学的には正しくありません。座っているときについ足を組んでしまう方は、下肢静脈瘤の可能性を念頭にいれましょう。

  • 足がかゆい

    足がかゆい

    足に溜まった老廃物が皮膚を刺激して、かゆみがでます。そのかゆみが下肢静脈瘤によるものと気づかずに皮膚科に通院している方も多く、なかなか症状が改善しづらいのが特徴です。ときに、皮膚炎を起こして慢性的な湿疹がある場合もあります。

  • 足が痛い

    足が痛い

    一般的には下肢静脈瘤のコブ自体が強く痛むことはありませんが、「ピリピリする」、「チクチクする」といった感覚があったり、「ふくらはぎのだるさ」を痛みと表現する方もいらっしゃいます。また、「陰部静脈瘤(いんぶじょうみゃくりゅう)」という種類の静脈瘤は、生理周期に連動して痛み出すことがあります。

  • 足がピリピリする

    足がピリピリする

    血液の量が増えて、血管が広がるときに感じる感覚です。特に、クモの巣状静脈瘤や網目状静脈瘤など細い血管で起こりやすい症状です。生理周期でホルモンの作用によって血管が拡張してピリピリすることあります。このピリピリ感を「しびれ」という方もいますが、神経のしびれとは関係ありません。

  • 足がほてる、冷える

    足がほてる、冷える

    足が熱くほてったように感じることがあります。逆に、冷えを感じる方もいます。下肢静脈瘤の病態と、ほてりや冷えを直接関連づけることは難しいですが、足の循環が悪いことによりそういった感覚をもつ方もいらっしゃいます。

下肢静脈瘤を放置すると起こる怖い末期症状

下肢静脈瘤は進行(放置)すると、上記のような症状にとどまらず、より治りにくい症状が出てしまいます。そんな下肢静脈瘤の進行例について解説しましょう。

  • 色素沈着

    色素沈着

    足に溜まった静脈血液中の成分(赤血球のヘモグロビンに含まれる鉄など)の色素が皮膚に沈着して、皮膚が黒っぽく変色していきます。

    いったん色素沈着が起こると、下肢静脈瘤を治療してもなかなかよくならないで、色素沈着が起こる前に治療を行うのが賢明です。

  • 潰瘍(かいよう)

    潰瘍(かいよう)

    足に溜まった静脈血液中の成分(赤血球のヘモグロビンに含まれる鉄など)の色素が皮膚に沈着して、皮膚が黒っぽく変色していきます。

    いったん色素沈着が起こると、下肢静脈瘤を治療してもなかなかよくならないで、色素沈着が起こる前に治療を行うのが賢明です。

  • 足の湿疹、皮膚硬化

    下肢静脈瘤は進行すると皮膚炎を起こすことがあります。コブができている周囲の皮膚や、足首の周辺に出るのが特徴です。かゆみが強く、薬をつけてもいったんは良くなりますが完治しません。皮膚にくり返し炎症を起こすと、段々と固く黒くなっていきます。

    これを脂肪皮膚硬化症(しぼうひふこうかしょう)と言います。

  • 血栓性静脈炎(けっせいせいじょうみゃくえん)

    足に溜まってしまった血液が、静脈内で固まってしまうことを「血栓(けっせん)」といいます。血栓ができるとその周辺組織に炎症を起こし、皮膚は赤く腫れあがり、強い痛みを感じます。下肢静脈瘤は、この痛みをきっかけに来院する方も多いです。放置していても数週間で自然に治まってきますが、下肢静脈瘤そのものを治療しない限り、くり返します。

  • 肺塞栓症(はいそくせんしょう)、エコノミークラス症候群

    飛行機に長時間乗るときや、自家用車内などの狭い空間で生活したときに起こりやすい病気として有名です。長時間、同じ体勢でいると静脈内の血が固まり(血栓)、肺に飛んで急性心不全になり最悪な場合突然死することがあります。

    下肢静脈瘤の方は、そうでない方に比べて肺塞栓が起きる可能性が若干高い傾向にあります。また、最近の静脈学会で、実際に下肢静脈瘤の原因となっている静脈に血栓ができ、そこから肺塞栓症が起こったという例が報告されています。可能性としてそれほど高いわけではないので、過剰に怖がる必要はありませんが、早めの治療に越したことはありません。

下肢静脈瘤の可能性が低い症状は?

足の不調は、下肢静脈瘤以外でも起こりえます。例えば、関節や筋肉、神経など、不快な症状はさまざまな部位で起こります。見た目で明らかなコブや目立った血管があったとしても、すべての症状を下肢静脈瘤のせいにはできません。

こんな症状は下肢静脈瘤の可能性が低い、という症状をみていきましょう。

足のしびれ

これも下肢静脈瘤の典型的な症状ではありません。下肢静脈瘤でしびれが起こるとするなら、ピリピリするような感覚か、もしくは一日立っていた後などにふくらはぎなどに一時的に出る程度です。お尻から足の後ろやふくらはぎの外側のしびれは、腰の神経に原因があることが多いです。

また、足先のしびれは糖尿病による合併症のひとつでもあります。足の感覚の異常(足の裏が砂利を踏んでいるような感じ)も、しびれとしてうったえる方もおりますが、これも下肢静脈瘤と言うよりは神経障害、例えば脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)など、脊椎が狭いことで神経が障害を受けている可能性が高いでしょう。

足のむくみ、冷え

先ほども述べましたが、むくみは下肢静脈瘤でも起こりますが、これも実にさまざまな要因で起こりますので、しっかりとした鑑別が必要です。さらに冷えの症状も下肢静脈瘤で起こりやすい症状ではありません。むしろ静脈ではなく心臓から送られてくる動脈の問題になります(動脈硬化など)。

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