- くしゃみをした瞬間に尿がもれる
- 走ったりジャンプしたりすると尿もれが気になる
- 重いものを持つと下着が濡れてしまう
このような症状がある場合、「腹圧性尿失禁」の可能性があります。
女性の尿もれは決して珍しい症状ではありません。特に妊娠・出産を経験した女性や、閉経後の女性では、骨盤底筋や尿道周囲の組織が弱くなることで腹圧性尿失禁が起こりやすくなります。
軽度であれば骨盤底筋トレーニングなどで改善することがありますが、症状が続く場合には薬物療法や手術などが検討されます。
一方で、
- 薬を長期間飲み続けることには抵抗がある
- 手術までは受けたくない
- 骨盤底筋トレーニングを続けても改善しない
という方も少なくありません。
海外では、そういった方に対して尿道周囲に注入剤を入れて尿道を閉じやすくする「尿道バルキング療法」も行われています。また近年では、自分の血液から作製したPRP(多血小板血漿)を尿道括約筋周囲へ注入する治療についても研究が進められています。
この記事では、女性の腹圧性尿失禁が起こる原因から、骨盤底筋トレーニング、内服治療、スリング手術、尿道バルキング療法、PRP注射まで、それぞれの特徴をわかりやすく解説します。
女性の腹圧性尿失禁とは?

腹圧性尿失禁とは、咳やくしゃみ、運動などによってお腹に力が入ったときに、自分の意思とは関係なく尿がもれてしまう状態です。
代表的なのは次のような場面です。
- 咳やくしゃみをしたとき
- 大きく笑ったとき
- 走ったりジャンプしたとき
- 階段を上り下りしたとき
- 重い荷物を持ったとき
- 立ち上がったとき
- スポーツをしたとき
通常は腹圧が高くなっても、骨盤底の支持組織と尿道括約筋が働くことで尿道が閉じられ、尿がもれないようになっています。ところが、この「尿道を支える力」と「尿道を締める力」が低下すると、膀胱にかかった圧力に尿道の閉鎖力が負けてしまい、尿もれが起こります。
関連ページ:女性の腹圧性尿失禁治療について
女性に腹圧性尿失禁が多い理由

腹圧性尿失禁は男性にも起こりますが、女性に非常に多くみられる尿失禁です。その大きな理由が、女性特有の身体構造と妊娠・出産です。
妊娠・出産による骨盤底へのダメージ
妊娠すると、胎児や子宮の重さによって骨盤底には長期間にわたって負担がかかります。さらに経腟分娩では、赤ちゃんが産道を通過するときに骨盤底筋、筋膜、靱帯、神経などが引き伸ばされます。
出産後にある程度回復する場合もありますが、完全には元の状態に戻らず、骨盤底の支持力が低下した状態が残ることがあります。特に出産回数が多い場合や難産、巨大児の出産などでは、骨盤底への負担が大きくなることがあります。
加齢による骨盤底筋の低下
骨盤底筋も身体のほかの筋肉と同じように、加齢に伴って筋力や機能が低下します。若い頃には問題がなかった方でも、40代、50代以降になってから「くしゃみをすると尿がもれるようになった」というケースは珍しくありません。
閉経による組織の変化
閉経後は女性ホルモンであるエストロゲンが低下します。エストロゲンの低下に伴い、腟や尿道周囲の粘膜・結合組織などにも変化が起こります。
妊娠・出産によるダメージに加齢や閉経による変化が加わることで、中高年になってから腹圧性尿失禁が目立つようになることがあります。
肥満・便秘・慢性的な咳
体重増加によって骨盤底にかかる負担が大きくなることも、腹圧性尿失禁のリスクになります。また、便秘で頻繁にいきむ習慣がある方や、喘息・喫煙などによって慢性的な咳が続く方では、日常的に腹圧が繰り返しかかるため、骨盤底への負担が増加します。
腹圧性尿失禁には2つの大きな原因がある

腹圧性尿失禁を理解するうえで重要なのが、「尿道を支える機能」と「尿道そのものを締める機能」です。
1. 尿道を支える力が弱くなる「尿道過可動」
骨盤底筋や尿道周囲の支持組織が弱くなると、咳やくしゃみをした瞬間に膀胱頸部や尿道が大きく動いてしまいます。これを「尿道過可動」と呼びます。
妊娠・出産後の腹圧性尿失禁では、この尿道過可動が関係しているケースがあります。
2. 尿道を締める力が弱くなる「内因性尿道括約筋不全(ISD)」
もう一つが、尿道括約筋自体の閉鎖機能が低下している状態です。これを「内因性尿道括約筋不全(Intrinsic Sphincter Deficiency:ISD)」と呼びます。
尿道を支える位置だけではなく、尿道そのものを閉じる機能が低下しているため、比較的小さな腹圧でも尿がもれることがあります。
実際には、尿道過可動と尿道括約筋機能低下の両方が関係しているケースもあります。そのため腹圧性尿失禁の治療では、「尿もれがある」という症状だけを見るのではなく、どの機能が低下しているのかを評価することが重要です。
女性の腹圧性尿失禁の治療
腹圧性尿失禁の治療には、大きく分けて以下のような方法があります。
1. 骨盤底筋トレーニング

まず行われることが多いのが骨盤底筋トレーニングです。尿道や腟、肛門を締めるような感覚で骨盤底筋を収縮させるトレーニングを繰り返します。身体への負担が少なく、自宅でも行えることが大きなメリットです。
一方、正しい筋肉を収縮させられていなかったり、十分な期間継続できなかったりすると、期待した効果が得られないことがあります。また、尿失禁の程度や原因によっては、骨盤底筋トレーニングだけでは十分に改善しない場合があります。
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2. 薬による治療

日本では、腹圧性尿失禁に対する薬物療法としてβ2アドレナリン受容体作動薬のクレンブテロールなどが使用されることがあります。ただし、腹圧性尿失禁に対する薬物療法は、国内の診療ガイドラインにおいて最も高いものでも「推奨グレードB」であり、治療の中心というより補助的な位置づけです。
また内服薬である以上、動悸や振戦、アレルギーなどの副作用や患者さんの全身状態などを考慮する必要があります。薬を飲んでいる間の症状改善を期待する治療であるため、長期にわたって薬を飲み続けることを希望しない方もいます。
そのため、
- 骨盤底筋トレーニングでは十分に改善しない
- 内服治療を続けるのは難しい
という段階で、次の治療を検討することになります。
3. スリング手術(TVT・TOT)

中等度以上の腹圧性尿失禁に対して行われる代表的な手術が「中部尿道スリング手術」です。尿道の下にテープ状の素材を留置し、腹圧がかかった際に尿道を支えられるようにします。代表的な方法としてTVT手術やTOT手術があります。
腹圧性尿失禁に対して確立された治療法の一つであり、高い治療効果が期待できることが大きなメリットです。一方で、身体に人工物を留置する手術であり、出血、感染、排尿困難、膀胱損傷、テープ露出などの合併症が起こる可能性があります。
治療効果だけで考えれば非常に重要な治療ですが、
- まだ手術までは受けたくない
- 身体に人工物を入れることに抵抗がある
という患者さんもいらっしゃいます。そのため、骨盤底筋トレーニングなどの保存的治療とスリング手術との間に位置する、より低侵襲な治療を希望する方も少なくありません。
海外では「尿道に注入する」という治療も行われている

そこで知っておきたいのが、「尿道周囲に注入する」という治療方法です。海外では「Urethral Bulking Agent(尿道バルキング剤)」と呼ばれる治療が行われています。尿道周囲へ注入剤を入れて尿道の内腔を狭くし、尿道が閉じやすい状態を作る治療です。
代表的な製品の一つが「Bulkamid(バルカミド)」です。Bulkamidはポリアクリルアミド・ハイドロゲルを尿道壁へ注入し、尿道の閉鎖を補助する治療です。
海外のガイドラインでは、スリング手術などと比較すると治療効果はやや低く、再注入が必要になる可能性があるものの、より低リスクな処置を希望する女性に提示できる選択肢の一つとされています。
つまり海外では、「尿もれ治療=薬かスリング手術だけ」ではなく、「尿道に注入して閉鎖機能を補助する」という考え方も治療選択肢として存在しています。
PRPを尿道周囲へ注入するという新しい考え方

近年研究されているのが、PRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)を利用した腹圧性尿失禁治療です。PRPは患者さん自身の血液を採取し、遠心分離などによって血小板を濃縮して作製します。血小板にはPDGF、TGF-β、VEGFなど、組織修復に関係するさまざまな成長因子が含まれています。
PRP治療は整形外科領域などを中心に再生医療として利用されてきましたが、近年は女性の腹圧性尿失禁に対して、尿道周囲や尿道括約筋へPRPを注入する臨床研究も報告されています。
尿道バルキング剤が主に「物理的に尿道を閉じやすくする」ことを目的とするのに対し、PRPでは自己血由来の成分を用いて尿道括約筋や周囲組織の機能改善を目指すという、異なる考え方の治療です。
PRP注射の研究はどこまで進んでいる?

女性の腹圧性尿失禁に対するPRP治療については、近年、複数の臨床研究が報告されています。
2021年に発表された臨床研究では、尿道括約筋の機能低下(内因性尿道括約筋不全:ISD)による腹圧性尿失禁の女性を対象として、尿道括約筋へPRPを注入する治療が行われ、尿失禁症状の改善が報告されました。その後、同研究グループから中期的な治療効果についても報告されています。
さらに2026年には、女性の腹圧性尿失禁に対するPRP注射について、8研究・計257例を対象としたシステマティックレビュー・メタ解析が発表されました。解析では、PRP治療後に尿失禁症状やQOL評価の改善に加え、尿が漏れ始める腹圧の指標である腹圧性尿漏出時圧(ALPP)が3か月後に平均51.07 cmH2O上昇したことが報告されています。
これらの研究から、PRP尿道注射は女性の腹圧性尿失禁に対する低侵襲な治療法として研究が進められています。
「手術はしたくない」という方にPRP注射という選択肢
腹圧性尿失禁の治療は、すべての患者さんに同じ治療を行えばよいわけではありません。軽度であれば、まず骨盤底筋トレーニングや生活習慣の改善を行うことが基本です。
一方で、
- 骨盤底筋トレーニングを続けても改善しない
- 内服薬だけでは十分な効果を感じない
- 長期的に薬を飲み続けることには抵抗がある
- スリング手術を受けるほどではないと感じている
- できるだけ身体への負担が少ない治療を希望している
という患者さんもいます。
こうした保存的治療と手術との間には、治療選択のギャップがあります。海外では、その選択肢の一つとしてBulkamidなどの尿道バルキング療法が利用されています。そして、同じように「尿道周囲へ注入する」という低侵襲なアプローチとして、PRP注射についても臨床研究が進められています。
PRP注射はすべての腹圧性尿失禁に効果が期待できるわけでもありません。しかし、標準的な保存治療で十分な改善が得られず、なおかつ手術を希望しない患者さんにとっては、医師と十分に相談したうえで検討できる治療選択肢の一つと考えられます。
大切なのは「尿もれの原因」を調べてから治療すること

女性の腹圧性尿失禁といっても、原因は患者さんによって異なります。尿道を支える組織が弱くなっている「尿道過可動」が中心なのか。尿道を締める機能そのものが低下している「尿道括約筋不全(ISD)」が中心なのか。あるいは両方が関係しているのか。
さらに、腹圧性尿失禁だと思っていても、実際には過活動膀胱による切迫性尿失禁が合併した「混合性尿失禁」である場合もあります。そのため、治療を選択する前に症状や尿もれの程度を確認し、必要に応じて超音波検査などを行って、尿道や骨盤底の状態を評価することが重要です。
まとめ
女性の腹圧性尿失禁は「我慢するしかない症状」ではありません
女性の腹圧性尿失禁は、出産や加齢などによって、尿道を支える機能や尿道括約筋の働きが低下することで起こります。治療には、骨盤底筋トレーニングや薬物療法、スリング手術などがあり、海外ではBulkamidなどの尿道注入療法も行われています。
近年では、より低侵襲な選択肢としてPRPを尿道周囲や尿道括約筋へ注入する治療も研究されています。尿もれの原因や程度を適切に評価し、それぞれの治療の特徴を理解したうえで、自分に合った治療を選ぶことが大切です。