泌尿器周辺治療

男性の腹圧性尿失禁(SUI)の原因と治療 前立腺手術後の尿漏れはなぜ起こる?

  • #前立腺手術
  • #尿もれ
  • #腹圧性尿失禁
立ち上がったときに尿漏れが気になる男性のイメージ
岡本 慎一

本記事の執筆者

理事長 岡本慎一

略歴

2002年
京都府立医科大学 卒業
2002年
同附属病院整形外科 勤務
2012年
京都府立医科大学大学院 卒業(医学博士取得)(PRPに関する論文が世界的再生医療雑誌Tissue Eng.に掲載)
2015年
赤羽ウェルネスクリニック 開院
2015年
PRPに関する研究が米国で特許取得
2018年
医療法人社団康静会 理事長就任

資格

  • 医学博士
  • 下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医
  • 日本脈管学会 脈管専門医
  • 日本整形外科学会 専門医
  • 弾性ストッキング・コンダクター

所属学会

  • 日本再生医療学会
  • 日本静脈学会
  • 日本脈管学会
  • 日本整形外科学会
  • 日本排尿機能学会
    • 前立腺の手術をしてから、咳やくしゃみをすると尿が漏れるようになった
    • 歩いたり立ち上がったりするだけで尿が漏れる
    • 手術から時間が経っても尿取りパッドが手放せない

    このような前立腺手術後の尿漏れで悩んでいる男性は少なくありません。

    男性の尿失禁にはいくつかの種類がありますが、咳・くしゃみ・運動・立ち上がりなど、お腹に力が入ったときに尿が漏れる状態を「腹圧性尿失禁(Stress Urinary Incontinence:SUI)」といいます。

    女性では出産や骨盤底筋の機能低下などさまざまな原因で起こりますが、男性の腹圧性尿失禁では、前立腺がんや前立腺肥大症に対する手術後に生じるものが代表的です。

    特に前立腺全摘除術後では、尿を止めるために重要な尿道括約筋や、その周囲の組織・神経などに影響が及ぶことで、手術前にはなかった尿漏れが生じることがあります。

    多くの場合、術後の時間経過や骨盤底筋訓練によって徐々に改善します。しかし、一定期間が経過しても尿漏れが残るケースもあり、その場合には症状の程度や原因に応じた治療を検討する必要があります。

    今回は、男性の腹圧性尿失禁が前立腺手術後に起こる理由と、現在行われている治療法について解説します。

    男性の腹圧性尿失禁(SUI)とは?

    腹圧で膀胱から尿が漏れる男性の腹圧性尿失禁のイメージ

    腹圧性尿失禁とは、膀胱に強い収縮が起きていないにもかかわらず、腹圧が上昇した際に尿が漏れてしまう状態です。

    たとえば、

    1. 咳やくしゃみをしたとき
    2. 椅子から立ち上がったとき
    3. 歩行や階段の上り下りをしたとき
    4. 重い物を持ったとき
    5. 運動をしたとき

    などに尿漏れが起こります。

    正常な状態では、お腹に力が入って膀胱内の圧力が高くなっても、尿道括約筋が尿道をしっかりと閉じることで尿が漏れないように調節されています。

    ところが、前立腺手術などによってこの仕組みが弱くなると、膀胱内の圧力に尿道の閉鎖力が負けてしまい、尿漏れが生じます。

    男性の腹圧性尿失禁の主な原因は前立腺手術

    手袋をした医師が患者の下腹部を触診している様子

    男性の腹圧性尿失禁では、前立腺がんに対する前立腺全摘除術後が代表的な原因です。

    また、頻度は異なりますが、

    • 前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺手術
    • 前立腺レーザー手術
    • その他の骨盤内手術
    • 尿道手術
    • 骨盤部への放射線治療
    • 神経障害

    などを契機として発症することもあります。

    その中でも、臨床上特に問題となるのが前立腺全摘除術後の尿失禁(Post-Prostatectomy Incontinence:PPI)です。

    前立腺がんを治療するためには非常に重要な手術ですが、前立腺は膀胱と尿道の間に位置しているため、摘出することで尿を止める仕組みそのものが大きく変化します。

    なぜ前立腺を切除すると尿漏れが起こるのか?

    膀胱と前立腺の模型をメスで示し、前立腺摘出を説明するイメージ

    男性が尿をためておくためには、単純に「尿道括約筋だけ」が働いているわけではありません。膀胱の出口、尿道、尿道括約筋、周囲の支持組織、神経、血流などが一体となって尿道を閉鎖しています。

    前立腺を摘出すると、この尿禁制機構の一部が失われ、残された外尿道括約筋への負担が大きくなります。

    1. 尿道括約筋の機能が低下する

    前立腺のすぐ下には、尿を止めるために重要な外尿道括約筋があります。

    前立腺手術ではできる限り括約筋を温存しますが、前立腺と非常に近い位置にあるため、手術による物理的な影響を完全に避けることは困難です。

    括約筋自体が短くなったり、周囲組織への影響によって十分に収縮できなくなったりすると、尿道を閉じる力が低下します。

    2. 尿道を支える構造が変化する

    前立腺を摘出すると、膀胱と尿道をつなぎ直す必要があります。その結果、手術前と比較して尿道の位置や長さ、尿道周囲の支持構造が変化します。

    尿道括約筋だけでなく、尿道を周囲から支えていた組織の働きが低下することも、腹圧性尿失禁の原因になります。

    3. 神経や血流の影響

    尿道括約筋が正常に収縮するためには、筋肉だけではなく、それを動かす神経や十分な血流が必要です。

    手術に伴って周囲の神経や血流環境に影響が生じると、筋肉そのものが残っていても、本来の収縮力を十分に発揮できなくなる場合があります。

    つまり、前立腺手術後の尿失禁は単純な「筋力低下」だけではなく、括約筋・支持組織・神経・血流など複数の要因が関係して起こると考えられます。

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    前立腺手術後の尿漏れは自然に治る?

    前立腺手術後も尿漏れが残り、股間を押さえる男性

    前立腺手術直後には尿漏れがみられることが多くても、そのすべてが長期間残るわけではありません。手術後の組織が回復し、残された尿道括約筋の働きが改善することで、数か月かけて尿失禁が軽くなっていく方も多くいます。

    そのため、術後早期には経過観察とともに骨盤底筋訓練(骨盤底筋体操)が行われます。

    一方で、時間が経過しても、

    • パッドを毎日使用している
    • 運動すると必ず漏れる
    • 外出時に尿漏れが心配になる

    といった症状が残る場合には、自然回復だけで改善することが難しくなっている可能性があります。

    男性の腹圧性尿失禁の治療

    尿漏れの治療相談で問診を受ける男性と、記録する医師

    男性の腹圧性尿失禁では、症状の程度や術後経過、尿道括約筋の残存機能などによって治療法を選択します。

    代表的な治療には、下記などがあります。

    1. 骨盤底筋訓練

    まず行われることが多いのが骨盤底筋訓練です。いわゆる「尿を途中で止めるように締める」動きを繰り返し、残存する尿道括約筋や骨盤底筋を適切に働かせることを目指します。

    特に前立腺全摘除術後の早期には重要な治療の一つで、尿禁制が回復するまでの期間を短縮する可能性があります。

    ただし、前立腺手術によって尿道括約筋そのものの機能が低下している場合には、筋力訓練だけでは十分に改善しないこともあります。

    2. 薬物療法

    男性の腹圧性尿失禁に対する薬物療法の選択肢は限られています。海外では、尿道括約筋の緊張を高める作用を期待してデュロキセチンが使用される場合があります。

    短期的に尿漏れの回数やパッド使用量を減らす効果が報告されていますが、吐き気、眠気、倦怠感などの副作用が問題になることがあります。

    また、効果を維持するには基本的に服用を継続する必要があります。そのため、長期間にわたって内服を続けることが難しい方もいます。

    3. 男性尿道スリング手術

    比較的軽度から中等度の腹圧性尿失禁では、尿道を下から支える男性尿道スリング手術が選択されることがあります。尿道の位置を調整し、腹圧がかかった際にも尿が漏れにくい状態を作る治療です。

    一定の治療効果が期待できる一方、手術が必要、全身麻酔が必要、術後の疼痛、排尿困難、感染、人工物に関連したトラブルなどのリスクがあります。

    4. 人工尿道括約筋(AUS)

    中等度から重度の尿失禁では、人工尿道括約筋(Artificial Urinary Sphincter:AUS)が代表的な治療の一つです。尿道の周囲にカフと呼ばれる器具を設置し、人工的に尿道を締めることで尿漏れを防ぎます。

    重度の術後尿失禁に対して高い効果が期待できる治療ですが、体内に人工物を埋め込む手術であり、感染、尿道びらん、機器の故障、将来的な再手術などが問題となることがあります。そのため、「尿漏れには困っているものの、大きな手術や人工物の挿入までは希望しない」という患者さんも少なくありません。

    手術と保存的治療の間にある治療選択肢

    前立腺手術後の腹圧性尿失禁では、

    • 骨盤底筋体操だけでは十分に改善しない
    • 薬をずっと飲み続けることには抵抗がある
    • 人工尿道括約筋などの手術までは受けたくない

    という患者さんがいます。

    このような場合、保存的治療と外科手術の間を補う低侵襲治療が選択肢となることがあります。その一つとして、当院では前立腺手術後の腹圧性尿失禁に対するPRP治療を行っています。

    当院の男性腹圧性尿失禁に対するPRP治療

    遠心分離した血液の採血管。上層の血漿がPRPに使われる

    PRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)は、患者さん自身の血液を採取し、血小板を多く含む成分を抽出して治療に利用する方法です。血小板にはさまざまな成長因子が含まれており、組織の修復や血流環境などに関与すると考えられています。

    当院では、膀胱鏡を使用して尿道内部を確認しながら、尿道粘膜および外尿道括約筋の適切な部位へPRPを注入します。前立腺手術後に機能が低下した尿道括約筋や尿道周囲組織にアプローチし、尿道の閉鎖機能の改善を目指します。

    大きく切開したり、人工物を体内に留置したりする治療ではないため、外科手術と比較すると身体への負担が少ないことが特徴です。

    ただし、PRP治療の効果には個人差があり、すべての尿失禁に有効な治療ではありません。そのため、治療前の評価が重要になります。

    PRP治療の適応を超音波検査で評価

    外尿道括約筋の残存機能を評価する超音波検査装置

    前立腺手術後に尿漏れがあるからといって、すべての患者さんがPRP治療の適応になるわけではありません。

    当院では問診に加えて、超音波検査により、その際の尿道や周囲組織の動きを観察し、外尿道括約筋の機能がどの程度残っているかを確認します。

    症状、術式、術後経過、超音波所見などを総合的に評価し、尿道括約筋やその周囲組織への治療によって改善が期待できると判断した方にPRP治療をご提案しています。

    膀胱鏡を用いて外尿道括約筋へPRPを注入

    膀胱鏡を用いて外尿道括約筋へPRPを注入する模式図

    治療では、膀胱鏡を用いて尿道内部を直接確認します。前立腺手術後の尿道や外尿道括約筋の状態を確認したうえで、尿道粘膜および外尿道括約筋の適切な部位へPRPを注射します。

    尿道括約筋の機能や尿道の抵抗性を高めることで、非排尿時の尿道閉鎖圧を高め、尿が漏れにくい状態を目指します。

    治療時間は約20分で、治療中は胃カメラなどの際に使用されているものと同じ静脈麻酔を使用しますので、眠っているうちに治療が終了します。治療後は麻酔からすぐに覚めて、当日ご帰宅いただけます。

    前立腺手術後の尿漏れでお悩みの方へ

    前立腺手術後の尿失禁は、外出や運動、仕事など日常生活に大きな影響を与えることがあります。治療には骨盤底筋訓練や薬物療法、尿道スリング、人工尿道括約筋などがありますが、尿漏れの程度や外尿道括約筋の残存機能によって、適した治療は異なります。

    当院では、問診と超音波検査で尿道括約筋の状態を評価し、PRP治療による改善が期待できる方に治療をご提案しています。

    前立腺手術後の尿漏れが続いている方は、一度ご相談ください。

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