- 骨盤底筋トレーニングを欠かしていないのに尿漏れが改善しない
- 咳や運動だけでなく、立ち上がっただけでも漏れてしまう
- 前立腺の手術後から尿漏れが続いている
このような尿漏れには、骨盤底筋による尿道の支持だけでなく、尿道を閉じる機能そのものの低下が関係している可能性があります。この状態を、内因性尿道括約筋不全(ISD:Intrinsic Sphincter Deficiency)といいます。
腹圧性尿失禁は、すべて同じ原因で起こるわけではありません。尿道を支える力が低下している場合と、尿道を閉じる力が低下している場合では、適した治療の考え方も異なります。
本記事では、ISDと尿道過可動の違い、ISDが疑われる尿漏れの特徴、骨盤底筋治療だけでは改善しにくい理由、治療の選択肢について解説します。
内因性尿道括約筋不全(ISD)とは
ISDとは、尿道を閉じて尿を膀胱内に保つ尿道閉鎖機能が著しく低下した状態です。
「尿道括約筋不全」という名称ですが、単に一つの筋肉だけが弱くなった状態ではありません。尿道括約筋を中心に、尿道の平滑筋、粘膜、粘膜下組織、血管、結合組織、神経などがつくる尿道閉鎖機構全体の機能低下として捉えられています。
そのため、骨盤底筋によって尿道を正しい位置に支えることができても、尿道自体を十分に閉じられなければ尿漏れが起こります。国際禁制学会(ICS)でも、ISDは尿道の閉鎖機構が著しく弱くなった状態として位置づけられています。
尿道括約筋の構造や、尿をためる基本的な仕組みについては、こちらで詳しく解説しています。
関連記事:尿道括約筋とは?
腹圧性尿失禁には異なるタイプがあります

腹圧性尿失禁は、尿道過可動型、ISD型、その混合型に分けて考えます。
尿道過可動型
骨盤底筋や尿道周囲の支持組織が弱くなり、咳やくしゃみなどで腹圧がかかった際に、尿道が大きく動いてしまうタイプです。主な問題は、尿道を支える土台の弱さにあります。
ISD型
尿道の位置が大きく動いていなくても、尿道を十分に閉じられないために尿が漏れるタイプです。主な問題は、尿道を閉じる機能の低下にあります。
混合型
尿道を支える力と閉じる力の両方が低下しているタイプです。実際には、尿道過可動とISDのどちらか一方だけではなく、両方の要素が重なっている患者さんも少なくありません。
| タイプ | 主な問題 | 治療の基本的な考え方 |
|---|---|---|
| 尿道過可動型 | 尿道を支える力の低下 | 骨盤底や尿道支持機能を補う |
| ISD型 | 尿道を閉じる力の低下 | 尿道閉鎖機能を補う |
| 混合型 | 支える力と閉じる力の両方が低下 | 両方の要素を考慮する |
この違いを考えずに、すべての腹圧性尿失禁へ同じ治療を行っても、十分な効果が得られない場合があります。
ISDが疑われる尿漏れの特徴
閉鎖機能の低下が強いと、比較的小さな動作でも尿が漏れることがあります。
ISDでは、咳やくしゃみ、運動などで腹圧がかかったときに尿漏れが起こります。次のような特徴があります。
- 咳やくしゃみでまとまった量が漏れる
- 立ち上がっただけで漏れる
- 歩いている途中で漏れる
- 前かがみになったときに漏れる
- 階段の上り下りで漏れる
- 軽い運動でも漏れる
- 骨盤底筋トレーニングを続けても改善が乏しい
- 前立腺手術後の尿漏れが長く続いている
ただし、これらの症状があるからといって、必ずISDであるとは限りません。尿漏れには、急な尿意とともに漏れる切迫性尿失禁や、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁が重なった混合性尿失禁などもあります。症状だけで自己判断せず、尿漏れが起こる状況やこれまでの経過を確認したうえで、治療方法を検討することが大切です。
女性のISD

女性では、妊娠・出産、加齢、閉経、骨盤内の手術などが重なることで、尿道閉鎖機能が低下することがあります。
出産による影響
経腟分娩では、骨盤底や尿道周囲の支持組織だけでなく、尿道括約筋の働きに関係する神経も影響を受ける可能性があります。そのため、出産後の尿漏れには、尿道を支える力の低下だけでなく、閉じる力の低下が関係していることがあります。
加齢・閉経による影響
加齢や閉経に伴って尿道粘膜、筋肉、結合組織などが変化すると、尿道内を密着させて閉じる働きが低下しやすくなります。若いころには症状がなかった方でも、更年期以降に咳や運動による尿漏れが目立ち始めることがあります。
女性の腹圧性尿失禁については、こちらで詳しく解説しています。
関連記事:女性の腹圧性尿失禁の原因と治療
男性のISD

男性のISDは、前立腺がんや前立腺肥大症に対する手術後に起こることが多くなります。
前立腺とその周囲の構造は、手術前には尿を保つ働きの一部を担っています。前立腺の手術後は尿禁制の仕組みが変化するため、残っている外尿道括約筋の役割がより重要になります。手術によって尿道括約筋や周囲組織、神経が影響を受けると、立ち上がり、歩行、咳などで尿が漏れやすくなります。
特に、前立腺がんに対する前立腺全摘除術後の腹圧性尿失禁では、尿道閉鎖機能の低下が重要な原因になります。
男性の前立腺手術後尿失禁については、こちらで詳しく解説しています。
関連記事:男性の腹圧性尿失禁(SUI)の原因と治療
ISDでは、枠を支えても鍵が閉まらないことがあります
ISDの主な問題は、尿道を支える土台だけではなく、尿道自体を閉じる機能が低下していることです。
骨盤底筋トレーニングは、腹圧性尿失禁に対して最初に検討される重要な治療です。骨盤底筋を適切に収縮させることで、尿道の支持や、外尿道括約筋と周囲筋の協調した働きを高める効果が期待されます。
例えるなら、尿道過可動は「ドアを支える蝶番や枠が緩んでいる状態」、ISDは「ドアを閉める鍵が弱くなっている状態」です。ドアの枠を支える力を強くしても、鍵そのものが十分に閉まらなければ、完全には解決できません。このため、骨盤底筋を正しく鍛えていても、尿道閉鎖機能の低下が強い場合には、尿漏れが十分に改善しないことがあります。
トレーニングの方法や期間、別の種類の尿失禁など、改善しない理由の全体はこちらで詳しく解説しています。
ISDでは治療の目的を明確にすることが重要です
大切なのは、どの治療が一番優れているかではなく、低下した尿道閉鎖機能をどの方法で補うかです。
治療方法は、尿漏れの程度、性別、原因、年齢、これまでの治療、生活への影響などを踏まえて選択します。
骨盤底筋治療

骨盤底による尿道の支持を高め、尿道括約筋と周囲筋の協調した働きを補います。軽度の尿漏れや手術後早期では、まず検討される治療です。ただし、尿道閉鎖機能の低下が強い場合には、単独では十分に改善しないことがあります。
内服治療

腹圧性尿失禁に対する内服治療では、神経を介して尿道括約筋や尿道周囲の筋肉へ働きかけ、尿道を締める力や尿道閉鎖圧を一時的に高めることを目的とします。そのため、内服治療は尿道を支える組織を元の位置へ戻す治療ではありません。尿道過可動を構造的に治したり、損傷した尿道括約筋を再生させたりするものでもありません。作用としては、尿道を支える機能よりも、尿道を閉じる働きを一時的に補助する治療に近いと考えられます。
尿道充填療法

尿道の周囲へ医療用の注入材料を入れ、組織に厚みを持たせることで、尿道を閉じやすくする治療です。「尿道バルキング療法」とも呼ばれます。「バルキング(bulking)」とは、「かさを増す」「厚みを持たせる」という意味です。注入した材料によって尿道の内側へ適度なふくらみを作り、物理的に尿道閉鎖を補助します。したがって、尿道充填療法は、尿道を閉じる力が低下したISDに対して、閉鎖機能を物理的に補う治療です。
手術

保存的治療を続けても改善せず、尿漏れによって日常生活が大きく制限されている場合には、手術が検討されます。女性に行われるスリング手術は、尿道の下にテープ状の人工物や自己組織を置き、腹圧がかかったときに尿道を支える治療です。基本的には、尿道を支える力が低下した尿道過可動に対するアプローチですが、尿道を閉じやすくする作用もあるため、ISDの要素がある患者さんに行われることもあります。ただし、尿道閉鎖機能の低下が強い場合には、尿道を支えるだけでは十分な効果が得られない可能性があります。
男性では、軽度から中等度の尿失禁に男性尿道スリング、中等度から重度の前立腺手術後尿失禁に人工尿道括約筋が検討されます。人工尿道括約筋は、低下した尿道閉鎖機能を人工的な装置で補うため、重度のISDに対する代表的な治療です。ただし、手術は高い改善効果が期待できる一方、麻酔や入院を伴うことが多く、注入治療と比べて身体への侵襲が大きくなります。また、人工物を使用する場合には、感染、排尿障害、人工物の露出や尿道損傷、装置の故障、再手術などのリスクがあります。
ISDに対するPRP注射という選択肢

尿道充填療法が注入材料のふくらみで閉鎖を補助するのに対し、PRP注射は尿道括約筋や周囲組織の修復を目的とします。
PRPは、患者さん自身の血液から作製した多血小板血漿を使用する治療です。血小板には組織修復に関係する複数の成長因子が含まれるため、ISDに対して、尿道括約筋や尿道周囲組織を治療標的とする方法が研究されています。
女性のISDを対象とした臨床研究では、PRP注射後に尿漏れの程度や生活の質が改善したという結果が報告されています。また、前立腺手術後の男性尿失禁を対象とした臨床研究も行われ、現在注目を集めている治療です。
手術が必要になるほどの重症ではないものの、尿漏れによって外出、仕事、運動などの日常生活に支障が出ている方や、身体への負担が大きい手術や人工物の留置を希望しない方にとっては選択肢の一つとなります。PRPは自分自身の血液から作製するため、人工物を体内へ留置する治療ではありません。また、手術と比べて身体への負担を抑えながら、尿道括約筋や周囲組織を治療標的とすることができます。
康静会グループでは、尿漏れがある方すべてに一律にPRP注射を行うのではなく、症状やこれまでの経過などを確認し、尿失禁の原因を特定した上で、治療の適応を判断しています。充填療法とPRP注射の違いは、こちらで詳しく解説しています。
関連記事:尿失禁の注入治療とは?
まとめ
ISDでは「尿道を閉じる力」に着目します。
腹圧性尿失禁には、尿道を支える力が低下する尿道過可動型、尿道を閉じる力が低下するISD型、両方が重なった混合型があります。骨盤底筋治療は重要ですが、尿道閉鎖機能の低下が強い場合には、それだけでは十分に改善しないことがあります。
尿漏れが重く、日常的におむつが必要になる場合には手術が適していることがあります。一方、手術が必要になるほどの重症ではなくても、尿漏れによって外出や仕事、運動などに支障が出ている方では、尿道充填療法やPRP注射などの低侵襲な治療も選択肢になります。
尿漏れの原因や程度には個人差があります。骨盤底筋を鍛えても改善しない場合や、前立腺手術後の尿漏れが続いている場合には、症状や経過に合った治療方法を検討することが大切です。治療をご検討中の方は、下記のボタンから関連ページをご覧ください。
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