- 咳やくしゃみをすると尿が漏れる
- 急に立ち上がったときや運動中に尿が漏れる
- 前立腺の手術後から尿漏れが続いている
このような尿漏れには、尿道を閉じて尿を膀胱内に保つ尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)の機能が関係していることがあります。
尿を我慢する働きは、骨盤底筋だけが担っているわけではありません。尿道括約筋、尿道の粘膜や支持組織、骨盤底、神経などが連携することで、普段は尿が漏れない状態が保たれています。
本記事では、尿道括約筋の役割と尿を止める仕組み、男女による違い、尿道括約筋の機能が低下した場合に起こる尿失禁について解説します。
尿道括約筋とは
尿道括約筋は、排尿するとき以外に尿が漏れないよう、尿道を締める筋肉です。
尿道は、膀胱にたまった尿を体外へ排出するための通り道です。蛇口を閉めて水が流れないようにする働きをイメージすると分かりやすいでしょう。一般的に尿道括約筋は、次の2つに分けて説明されます。
内尿道括約筋

内尿道括約筋は、膀胱の出口付近にある平滑筋を中心とした構造です。自分の意思で動かす筋肉ではなく、自律神経によって無意識に調節されています。膀胱に尿をためている間は膀胱の出口を閉じ、排尿するときには緩むことで、尿をスムーズに排出できるようにしています。
外尿道括約筋

外尿道括約筋は、尿道の周囲にある横紋筋です。「尿を途中で止める」「尿を漏らさないように締める」ときに働く筋肉で、ある程度は自分の意思で収縮させることができます。
ただし、尿を我慢する働きは外尿道括約筋だけで成立しているわけではありません。尿道周囲の平滑筋、粘膜、血管、結合組織、骨盤底筋、神経なども関係しています。尿道括約筋の構造や働きには男女差があり、男性では前立腺、女性では腟や骨盤底との位置関係も尿禁制に影響します。
尿を「ためる」ときと「出す」ときの仕組み
膀胱と尿道括約筋は、神経の調節を受けながら、ためるときと出すときで協調して働きます。
排尿には、主に次の2つの状態があります。
尿をためているとき
膀胱に尿がたまっている間は、次の働きが同時に起こっています。
- 膀胱が緩んで尿を受け入れる
- 膀胱の出口が閉じる
- 尿道括約筋が尿道を締める
- 骨盤底や尿道周囲の組織が尿道を支える
咳やくしゃみ、運動などで急にお腹へ力がかかったときも、尿道が適切に閉じ、膀胱内の圧力に耐えることで尿漏れを防ぎます。
排尿するとき
排尿するときは、脳や脊髄からの信号によって、次の動きが起こります。
- 尿道括約筋が緩む
- 膀胱が収縮する
- 膀胱から尿道へ尿が流れる
尿を止めるのは尿道括約筋だけではありません

腹圧性尿失禁は、尿道を支える力の低下と、尿道を閉じる力の低下が、単独または重なって起こります。
尿漏れの原因を考えるときは、尿道括約筋だけではなく、次の2つの機能を分けて考えることが重要です。
1. 尿道を支える機能
骨盤底筋や周囲の支持組織が尿道を適切な位置に保ち、腹圧がかかったときに尿道が大きく動かないように支えます。出産や加齢などによって支持する力が低下すると、咳やくしゃみをしたときに尿道が動きやすくなり、尿漏れにつながることがあります。
2. 尿道そのものを閉じる機能
尿道括約筋や尿道粘膜などが働き、尿道内を閉じた状態に保ちます。この閉鎖機能が低下すると、尿道の位置が大きく動いていなくても、腹圧の上昇に耐えられず尿が漏れることがあります。つまり、腹圧性尿失禁は単純に「骨盤底筋が弱いから起こる」とは限りません。
尿道括約筋の機能が低下するとどうなる?

尿道の閉鎖機能が低下すると、腹圧が上がったときに尿が漏れやすくなります。これを腹圧性尿失禁といいます。
尿道括約筋を含む尿道の閉鎖機能が低下すると、膀胱内の圧力が高まった際に尿道を十分に閉じられなくなります。その結果、次のような場面で尿漏れが起こりやすくなります。
- 咳やくしゃみをしたとき
- 立ち上がったとき
- 重い物を持ったとき
- 走ったり跳んだりしたとき
- 階段を上り下りしたとき
詳しい全体像は、次の記事で解説しています。
尿道括約筋の機能が低下する原因
女性では妊娠・出産や閉経、男性では前立腺の手術が、閉鎖機能の低下に関係することが多くあります。
女性の場合

女性では、次のような要因によって尿道を支える機能や閉じる機能が低下することがあります。
- 妊娠・出産
- 加齢
- 閉経に伴う変化
- 骨盤内の手術
- 肥満
出産では、骨盤底筋や支持組織だけでなく、尿道括約筋の働きに関係する神経が影響を受けることもあります。
女性の尿漏れについては、こちらで詳しく解説しています。
関連記事:女性の腹圧性尿失禁の原因と治療
男性の場合

男性の腹圧性尿失禁は、前立腺がんや前立腺肥大症に対する手術後に起こることが多くなります。男性では、前立腺とその周囲の構造も尿を保つ働きに関わっています。前立腺の手術後は尿禁制の仕組みが変化し、残っている外尿道括約筋や骨盤底筋への依存が大きくなります。
手術による影響や括約筋機能の低下があると、咳、歩行、立ち上がりなどの際に尿が漏れやすくなります。
前立腺手術後の尿漏れについては、こちらで詳しく解説しています。
関連記事:男性の腹圧性尿失禁(SUI)の原因と治療
閉じる力が大きく落ちた状態を、ISDと呼びます

尿道そのものを閉じる機能が著しく低下した状態は、内因性尿道括約筋不全(ISD:Intrinsic Sphincter Deficiency)と呼ばれます。
ISDでは、尿道括約筋だけでなく、尿道平滑筋、粘膜、粘膜下組織、血管、神経などを含む尿道閉鎖機構全体の機能低下が関係すると考えられています。そのため、骨盤底筋を鍛えて尿道を支える力が高まっても、尿道を閉じる機能の低下が強い場合には、尿漏れが十分に改善しないことがあります。
ただし、腹圧性尿失禁の原因は一人ひとり異なり、症状だけでISDと判断することはできません。
ISDについては、こちらで詳しく解説しています。
関連記事:内因性尿道括約筋不全(ISD)とは?
尿道括約筋の機能低下に対する治療

治療は、尿漏れの原因、程度、性別、年齢、生活への影響によって選びます。
主な選択肢には次のようなものがあります。
骨盤底筋トレーニング
骨盤底筋を意識的に収縮させるトレーニングです。骨盤底による尿道の支持や、外尿道括約筋と周囲筋の協調した働きを高めることを目的とします。腹圧性尿失禁に対して、最初に検討されることの多い保存的治療です。
康静会グループでは、男女それぞれの身体的特徴に合わせた骨盤底筋強化治療を行っています。詳しい治療方法については、以下をご覧ください。
関連ページ:赤羽院「骨盤底筋強化治療」(女性)を詳しく見る
関連ページ:赤羽院「骨盤底筋強化治療」(男性)を詳しく見る
薬物療法
尿失禁の種類や症状によっては、内服治療が検討される場合があります。ただし、内服薬は尿道括約筋や骨盤底の状態を根本的に改善する治療ではなく、服用している間の症状を一時的に抑えることが主な目的です。
一生涯にわたって薬を飲み続けて症状を抑えることを前提とするのではなく、骨盤底筋治療、注入治療、手術など、その方の原因に応じた治療を行うまでの補助的な選択肢として考えておくほうが良いでしょう。
尿道への注入治療
尿道への注入治療には、尿道バルキング療法とPRP注射などがあります。「バルキング(bulking)」とは、英語で「かさを増す」「厚みを持たせる」という意味です。
尿道バルキング療法では、尿道の周囲に医療用の注入材料を入れて組織に厚みを持たせ、尿道を閉じやすくします。このときに使用する注入材料を尿道充填剤(バルキング剤)と呼びます。ヒアルロン酸に似たゲル状物質などを注入し、主に物理的なふくらみによって尿道の閉鎖を補助します。
一方、PRP注射は、患者さん自身の血液から作製した多血小板血漿を使用し、尿道括約筋や尿道周囲組織を治療標的とする方法です。使用する材料だけでなく、治療の目的や考え方も異なります。
違いについては、こちらで詳しく解説しています。
関連記事:尿失禁の注入治療とは?
手術
女性では尿道を支えるスリング手術、男性では男性尿道スリングや人工尿道括約筋などが検討されます。重症度や原因によっては手術が適していることもあるため、低侵襲治療だけにこだわらず、症状に合った治療を選ぶことが重要です。
尿道括約筋を治療標的とするPRP注射

PRP注射は、尿道括約筋や尿道周囲組織を治療標的として研究されている方法です。
PRPは、患者さん自身の血液から血小板を多く含む成分を作製して使用する治療です。血小板には組織修復に関係する複数の成長因子が含まれるため、尿失禁の領域でも臨床研究が行われています。
女性の腹圧性尿失禁や内因性尿道括約筋不全(ISD)、前立腺手術後の男性尿失禁を対象とした臨床研究では、PRP注射後に尿漏れの程度や生活の質が改善したという結果が報告されています。一方、PRPはすべての患者さんに効果が約束されている治療ではありません。そのため康静会グループでは、尿漏れがある方すべてに一律にPRP注射を行うのではなく、症状やこれまでの経過などを確認したうえで、治療の適応を判断しています。
詳しい治療方法については、以下をご覧ください。
関連ページ:女性の腹圧性尿失禁治療について
関連ページ:男性の腹圧性尿失禁治療について
まとめ
尿漏れには「尿道を支える力」と「閉じる力」が関係します
尿道括約筋は、尿道を閉じて尿漏れを防ぐために重要な筋肉です。骨盤底筋、尿道の支持組織、粘膜、神経などが連携することで、尿が漏れない状態が保たれています。
腹圧性尿失禁には、尿道を支える機能の低下、尿道を閉じる機能の低下、その両方が関係する可能性があります。そのため、「尿漏れがあるから骨盤底筋を鍛える」「改善しないからすぐに手術をする」という一つの方法だけではなく、症状や原因に合わせて治療を選ぶことが大切です。
尿漏れでお困りの方は、一人で抱え込まず、まずは医療機関へご相談ください。治療をご検討中の方は、下記のボタンから関連ページをご覧ください。
参考文献:Jung J, et al. Clinical and Functional Anatomy of the Urethral Sphincter. Int Neurourol J. 2012;16(3):102-106. 論文
参考文献:Abelson B, et al. Sex Differences in Lower Urinary Tract Biology and Physiology. Biol Sex Differ. 2018;9:45. 論文
参考文献:de Groat WC, et al. Neural Control of the Lower Urinary Tract. Compr Physiol. 2015;5(1):327-396. 論文
参考文献:Jiang YH, et al. Therapeutic Efficacy of Urethral Sphincter Injections of Platelet-Rich Plasma for the Treatment of Stress Urinary Incontinence Due to Intrinsic Sphincter Deficiency: A Proof-of-Concept Clinical Trial. Int Neurourol J. 2021;25(1):51-58. 論文
参考文献:Lee PJ, et al. A Novel Management for Postprostatectomy Urinary Incontinence: Platelet-Rich Plasma Urethral Sphincter Injection. Sci Rep. 2021;11:5371. 論文
参考文献:Chiang CH, Kuo HC. The Efficacy and Mid-Term Durability of Urethral Sphincter Injections of Platelet-Rich Plasma in Treatment of Female Stress Urinary Incontinence. Front Pharmacol. 2022;13:847520. 論文