- 尿道に注射して尿漏れを治療する方法があると聞いた
- 尿道充填療法とPRP注射は何が違うの?
- 手術や人工物の留置は避けたい
腹圧性尿失禁に対する治療には、骨盤底筋治療や手術のほかに、尿道や尿道周囲へ注射を行う方法があります。代表的なものが、尿道周囲へ医療用の材料を注入する尿道充填療法と、患者さん自身の血液から作製した多血小板血漿を用いるPRP注射です。
どちらも「尿道や尿道周囲組織へ注射する治療」ですが、使用する材料だけでなく、治療の目的や尿道へ働きかける仕組みが異なります。本記事では、尿道充填療法とPRP注射の違い、それぞれの作用や特徴について解説します。
尿失禁に対する注入治療とは

注入治療は、尿道や尿道周囲へ材料を注入し、尿道を閉じやすくする治療です。
主に、咳、くしゃみ、運動、立ち上がりなどで尿が漏れる腹圧性尿失禁に対して行われます。腹圧性尿失禁には、尿道を支える力が低下する尿道過可動と、尿道を閉じる機能が低下する内因性尿道括約筋不全(ISD)が関係します。注入治療は、特に尿道を閉じる機能に着目した治療です。
尿道を閉じる仕組みと、ISDについては、こちらで詳しく解説しています。
関連記事:尿道括約筋とは?
関連記事:内因性尿道括約筋不全(ISD)とは?
ISDは尿道括約筋の機能低下と尿道粘膜の菲薄化が主原因
尿道を閉じる働きには、尿道括約筋に加えて、尿道粘膜や粘膜下組織の厚みも関係します。
内因性尿道括約筋不全(ISD)は、その名前の通り尿道括約筋の機能低下が原因となりますが、それだけではありません。健康な尿道では、粘膜と粘膜下組織に一定の厚みと柔軟性があり、尿道の内面同士が密着することで尿の通り道を閉じています。
しかし、加齢や閉経に伴う女性ホルモンの減少などによって尿道粘膜や粘膜下組織が薄くなると、尿道内面が密着しにくくなります。その結果、尿道括約筋が働いていても十分な閉鎖を保てず、咳やくしゃみなどで腹圧がかかった際に尿が漏れやすくなることがあります。
尿道充填療法とは

尿道充填療法は、注入材料そのものの体積で尿道壁に厚みを作り、尿道を閉じやすくする治療です。
尿道の壁や尿道周囲へ医療用の注入材料を入れ、組織に厚みを持たせます。英語では「尿道バルキング療法」と呼ばれます。「バルキング(bulking)」とは、英語で「かさを増す」「厚みを持たせる」という意味です。尿道の内側へ向かって適度なふくらみを作り、尿の通り道を狭くすることで、腹圧がかかったときにも尿道を閉じやすくします。
この治療に使用する医療用の注入材料を、尿道充填剤(バルキング剤)と呼びます。海外では、ポリアクリルアミドハイドロゲルなどのゲル状材料が使用されています。代表的な製品としてBulkamidがありますが、日本では尿失禁に対する一般的な標準治療として広く行われている方法ではありません。
尿道充填療法は「材料の体積」で尿道を閉じやすくする治療
主な目的は、注入材料そのものの体積によって尿道壁に厚みを作り、尿道の内面同士を密着させることです。例えるなら、完全に閉まらなくなったドアの隙間にクッションを置き、隙間を小さくするような考え方です。切開を伴う手術と比べて身体への負担が少なく、必要に応じて追加注入できる利点があります。
一方、尿道充填療法は、弱くなった尿道括約筋そのものを回復させる治療ではありません。注入した材料による物理的なふくらみで、低下した尿道閉鎖機能を補う治療です。
PRP注射とは

PRP注射は、自分の血液から作製した多血小板血漿を、尿道粘膜や尿道括約筋へ注入する治療です。
PRPとは、Platelet-Rich Plasma(多血小板血漿)の略称です。患者さん自身から採取した血液を専用の方法で処理し、血小板を多く含む成分を作製して使用します。血小板には、組織修復、血管新生、コラーゲン産生などに関係する複数の成長因子が含まれています。
尿失禁の領域では、PRPを尿道粘膜・粘膜下組織や尿道括約筋へ注入し、尿道を閉じる機能へ働きかける治療として研究されています。女性の腹圧性尿失禁やISDだけでなく、前立腺手術後の男性尿失禁を対象とした臨床研究も報告されています。
PRPは尿道粘膜と尿道括約筋の両方を治療標的にできる
PRP治療は、粘膜の厚みと、尿道を締める機能の、2つの方向から閉鎖にアプローチできます。
尿道粘膜・粘膜下組織への作用

尿道粘膜や粘膜下組織へPRPを注入することで、血小板に含まれる成長因子による組織修復、血管新生、コラーゲン産生などが促され、菲薄化した組織の状態や厚みが改善する可能性があります。尿道粘膜と粘膜下組織に厚みが生まれると、尿道の内面同士が密着しやすくなり、尿の通り道が狭くなります。この点では、PRP注射にも尿道充填療法と同じように、尿道内面の密着性を高め、物理的に尿を漏れにくくする効果が期待できます。
尿道括約筋への作用

PRPは尿道括約筋やその周囲にも注入できます。PRPが持つ血小板や成長因子の組織再生効果を利用して、尿道括約筋やその周囲組織の機能回復を目的とします。そのためPRP治療では、次の2つの方向から尿道閉鎖機能へアプローチできます。
- 尿道粘膜・粘膜下組織の厚みを改善し、尿道内面を密着させる
- 尿道括約筋や周囲組織へ働きかけ、尿道を締める機能を高める
実際に、尿道へのPRP注射による尿禁制効果は、人を対象とした臨床研究でも報告されています。内因性尿道括約筋不全(ISD)による腹圧性尿失禁患者35例を対象とした研究では、尿道括約筋へPRPを4回注射した結果、20%が尿漏れのない状態となり、40%に中等度の改善が認められました。また、尿漏れの程度が有意に軽減し、腹圧がかかったときに尿道が尿漏れを防ぐ力を示す指標も改善しました。

女性26例を対象とした別の研究でも、4回のPRP注射後に80.8%が症状の改善を実感し、50%が治療成功と評価されました。平均約1年の経過観察後にも、26.9%が尿取りパッドを必要としない尿禁制状態を維持していました。
これらの研究から、尿道へのPRP注射は単に注入直後のふくらみによって尿道を狭くするだけではなく、尿道括約筋や周囲組織へ働きかけ、尿道抵抗と尿禁制機能を改善する可能性が示されています。一方、PRPによる尿道粘膜・粘膜下組織の肥厚については、今後さらに直接的な検証が必要ですが、尿道へのPRP注射による尿失禁症状と尿禁制機能の改善は、すでに複数の臨床研究で報告されています。
尿道充填療法とPRP注射の違い
どちらも注射で尿道を閉じやすくしますが、厚みの作り方と、括約筋そのものを標的にするかが異なります。
| 尿道充填療法 | PRP注射 | |
|---|---|---|
| 使用するもの | 医療用のゲル状材料など | 患者さん自身の血液から作製したPRP |
| 厚みを作る方法 | 注入材料そのものの体積 | 組織修復による粘膜・粘膜下組織の改善を目指す |
| 尿道内面への作用 | 人工的なふくらみによって密着させる | 粘膜・粘膜下組織の状態や厚みを改善し、密着性を高めることを目指す |
| 尿道括約筋への作用 | 括約筋そのものの回復は目的としない | 尿道括約筋や周囲組織も治療標的にできる |
| 人工物の残留 | あり | なし |
| 効果の現れ方 | 注入後から閉鎖を補助する | 組織修復に伴って徐々に変化する可能性がある |
| 追加治療 | 効果が不十分な場合に追加注入することがある | 効果が不十分な場合や低下した場合に繰り返し治療できる |
| 主な対象 | 主に女性の腹圧性尿失禁 | 女性SUI・ISD、前立腺手術後の男性尿失禁など |
| 国内での位置づけ | 一般的な標準治療としては普及していない | 再生医療として実施されている医療機関がある |
注入治療はどのような方に検討される?

手術が必要なほどの重症ではなく、尿漏れが日常生活の支障になっている方で検討されます。
注入治療は、主に次のような方で検討されます。
- 骨盤底筋治療を行っても尿漏れが残っている
- 尿漏れによって外出、仕事、運動などに支障がある
- 手術を受けるほどの重症ではない
- 身体への負担が大きい手術を避けたい
- 人工物の留置に抵抗がある
- 前立腺手術後の尿漏れが続いている
尿漏れが非常に重く、日常的におむつが必要になる場合には、手術が適していることもあります。一方、手術が必要になるほどの重症ではないものの、尿漏れによって日常生活に支障が出ている方では、低侵襲な注入治療を検討する余地があります。
康静会グループで行う尿道へのPRP注射

康静会グループでは、尿道粘膜・粘膜下組織と、尿道括約筋やその周囲を治療標的とするPRP注射を行っています。
患者さん自身の血液から作製したPRPを用います。PRPは、尿道粘膜の厚みや密着性を改善する作用と、尿道括約筋や周囲組織へ働きかける作用の両方が期待されます。尿漏れがある方すべてへ一律にPRP注射を行うのではなく、尿漏れが起こる状況、これまでの経過、受けてきた治療などを確認したうえで、治療の適応を判断します。
まとめ
PRPは粘膜と尿道括約筋の両方へアプローチします。
尿道充填療法とPRP注射は、どちらも尿道周囲へ注射を行う低侵襲な治療ですが、厚みを作る方法と治療の目的が異なります。尿道充填療法は、医療用の注入材料そのものの体積によって尿道壁に厚みを作り、物理的に尿道を閉じやすくする治療です。
一方、PRP注射は、患者さん自身の血液に含まれる血小板や成長因子を利用して、尿道粘膜・粘膜下組織の状態や厚みを改善し尿道内面を密着させること、尿道括約筋や周囲組織へ働きかけ尿道を締める機能を高めること、という2つの方向から尿道閉鎖機能へアプローチします。人工物を体内へ残さず、必要に応じて繰り返し治療できることもPRPの特徴です。
ただし、適した治療は尿漏れの原因や程度によって異なります。症状やこれまでの治療経過を確認し、適切な検査を行った上で専門の医師が適切な治療をご提案します。治療をご検討中の方は、下記のボタンから関連ページをご覧ください。
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