- 出産してから、咳やくしゃみで尿が漏れるようになった
- 産後しばらくたっても尿漏れが改善しない
- 閉経後から尿漏れが気になる
女性の尿漏れは、妊娠・出産や閉経など、身体が大きく変化する時期に始まることがあります。一般的に尿漏れは骨盤底筋の筋力低下により起こると言われていますが、それだけが原因ではありません。尿道を支える組織、尿道括約筋、尿道粘膜、神経などの変化も原因となることがあります。
本記事では、出産後と閉経後に尿漏れが起こりやすくなる理由と、骨盤底筋治療、スリング手術、PRP注射について解説します。
出産後・閉経後は、支える力と閉じる力の両方が関係します

この時期の尿漏れでは、尿道を支える力と、尿道を閉じる力の両方が低下している場合があります。
尿を膀胱内に保つためには、次の2つの機能が重要です。
尿道を支える力
骨盤底筋や靱帯、結合組織などが尿道を適切な位置に支えます。この支持機能が低下すると、咳やくしゃみで腹圧がかかった際に尿道が大きく動き、尿が漏れやすくなります。この状態を尿道過可動といいます。
尿道を閉じる力
尿道括約筋、尿道粘膜、粘膜下組織、血管などが働き、排尿するとき以外は尿道内を閉じた状態に保ちます。この閉鎖機能が著しく低下した状態を、内因性尿道括約筋不全(ISD)といいます。
尿道を止める仕組みと、ISDについては、こちらで詳しく解説しています。
関連記事:尿道括約筋とは?
関連記事:内因性尿道括約筋不全(ISD)とは?
出産後に尿もれが起こる理由

産後の尿漏れには、妊娠中からの負担と、分娩時の筋肉・支持組織・神経への影響が重なります。
産後の尿漏れには、出産時の負担だけでなく、妊娠中から始まる身体の変化も関係しています。
妊娠中から骨盤底へ負担がかかる
妊娠中は、子宮と胎児の重さによって骨盤底へ継続的な負担がかかります。妊娠に伴うホルモンの変化によって靱帯や結合組織が緩みやすくなることや、体重の増加も尿道の支持機能へ影響します。そのため、経腟分娩をしていない女性でも、妊娠中や帝王切開後に尿漏れが起こることがあります。
出産時に骨盤底筋や支持組織が引き伸ばされる
経腟分娩では、赤ちゃんが産道を通る際に、骨盤底筋、靱帯、筋膜などが大きく引き伸ばされます。これらの組織が損傷すると尿道を十分に支えられなくなり、咳やくしゃみで腹圧がかかった際に尿道が動きやすくなります。特に、分娩時間が長かった場合、吸引・鉗子分娩、大きな赤ちゃんの出産、複数回の出産などでは、骨盤底への負担が大きくなる可能性があります。
尿道括約筋に関係する神経が影響を受ける
出産時には、骨盤底筋や尿道括約筋を動かす陰部神経が圧迫されたり、引き伸ばされたりすることがあります。神経の働きが低下すると、骨盤底筋や尿道括約筋を十分に収縮させにくくなります。産後の尿漏れは、単純な筋力低下だけではなく、筋肉・支持組織・神経への影響が重なって起こることがあります。
産後の尿もれは自然に治る?

出産直後の尿漏れは珍しくありませんが、半年以上続く場合は、今の状態に合った治療を検討します。
出産直後は、骨盤底筋や周囲組織が一時的に弱くなっているため、尿漏れが起こることは珍しくありません。産後の身体が回復するにつれて、尿漏れが徐々に改善する方もいます。一方、次のような場合には症状が長く残ることがあります。
- 妊娠中から尿漏れがあった
- 複数回の出産を経験している
- 骨盤底筋や支持組織の損傷が大きい
- 尿道括約筋や神経への影響がある
- 産後も便秘や慢性的な咳が続いている
- 体重が十分に戻っていない
出産後も半年以上尿漏れが続いている場合や、外出、仕事、運動などに支障がある場合には、現在の状態に合った治療を検討することをお勧めします。
閉経後に尿もれが起こる理由

閉経後は、筋力低下に加えて、女性ホルモンの減少で尿道粘膜が薄くなることが関係します。
閉経後の尿漏れには、加齢による筋力低下に加えて、女性ホルモンの減少が関係しています。
尿道粘膜と粘膜下組織が薄くなる
女性ホルモンは、腟だけでなく、尿道や膀胱周囲の組織にも影響しています。閉経によって女性ホルモンが減少すると、尿道粘膜や粘膜下組織が薄くなり、血流や柔軟性も低下します。健康な尿道では、粘膜と粘膜下組織に一定の厚みがあり、尿道の内面同士が密着することで尿の通り道を閉じています。これらの組織が薄くなると尿道内面が密着しにくくなり、尿を閉じ込める力が低下します。
尿道括約筋の働きが低下する
加齢に伴って尿道括約筋の筋肉量や収縮力が低下すると、腹圧がかかった際に尿道を十分に閉じられなくなることがあります。骨盤底筋を鍛えていても、尿道括約筋や尿道粘膜の変化が大きい場合には、尿漏れが十分に改善しないことがあります。
骨盤底や支持組織が弱くなる
妊娠・出産による影響が残っているところへ、加齢による筋力や結合組織の変化が加わることで、尿漏れが現れる場合があります。若いころには症状がなかった方でも、閉経をきっかけに尿道を支える力と閉じる力が低下し、咳や運動による尿漏れが目立ち始めることがあります。
出産後と閉経後では尿もれの原因が少し異なります
背景は違いますが、どちらも最終的には、支える機能と閉じる機能の低下で尿漏れが起こります。
| 出産後の尿もれ | 閉経後の尿もれ | |
|---|---|---|
| 主な背景 | 妊娠・分娩による負担 | 加齢・女性ホルモンの減少 |
| 骨盤底筋 | 引き伸ばしや損傷 | 筋力や筋肉量の低下 |
| 尿道支持組織 | 靱帯・筋膜の損傷や緩み | 結合組織の加齢変化 |
| 神経 | 出産時の圧迫・伸展 | 加齢に伴う機能低下 |
| 尿道粘膜 | 出産の影響には個人差がある | 菲薄化・血流低下が起こりやすい |
| 主な病態 | 尿道過可動と括約筋機能低下 | 尿道粘膜の菲薄化と括約筋機能低下 |
| 経過 | 自然に改善することもある | そのままでは改善しにくいことがある |
咳やくしゃみで漏れる場合は腹圧性尿失禁の可能性があります

咳、くしゃみ、立ち上がり、階段、軽い運動などで漏れる場合は、腹圧性尿失禁の可能性があります。
笑う、前かがみになるなどの動作で尿が漏れる場合も同様です。女性の尿漏れの全体像は、こちらで詳しく解説しています。
関連記事:女性の腹圧性尿失禁の原因と治療
まずは骨盤底筋治療を行います

出産後・閉経後の腹圧性尿失禁では、まず骨盤底筋トレーニングなどの保存的治療を行います。
骨盤底筋を適切に収縮させることで、尿道を支える力と、骨盤底筋・尿道括約筋の協調した働きを高めることを目指します。康静会グループでは、女性の身体的特徴に合わせた骨盤底筋強化治療を行っています。詳しい治療方法については、以下をご覧ください。
関連ページ:赤羽院「骨盤底筋強化治療」を詳しく見る
骨盤底筋治療で改善しない場合はスリング手術が選択肢になります

保存的治療で改善せず、日常生活に支障がある場合の標準治療として、TVT・TOTなどのスリング手術があります。
スリング手術は、尿道の下にテープ状の人工物を留置し、咳やくしゃみで腹圧がかかったときに尿道を支える治療です。スリング手術では、尿道の下にあたる腟壁を切開し、術式に応じて下腹部または脚の付け根にも小さな切開を加えます。そこから人工メッシュ製のテープを通し、尿道を支えるように留置します。
尿漏れに対する改善効果が期待できる一方、麻酔や手術操作が必要で、医療機関や術式によっては入院も必要になります。また、人工物を体内に留置するため、次のような合併症が起こる可能性があります。
人工物を体内に留置ことで起こりうるリスク
- 排尿しにくくなる
- 尿が出せず、導尿が必要になる
- 感染
- 慢性的な痛み
- 性交時の痛み
- メッシュが腟や尿道へ露出する
- 膀胱や尿道など周囲組織を損傷する
すべての患者さんに合併症が起こるわけではありませんが、改善効果だけでなく、身体への負担や人工物を長期間留置することも理解したうえで選択する必要があります。
スリング手術以外の治療を希望する方へ

切開や人工物の留置を避けたい方には、尿道粘膜や尿道括約筋へ働きかけるPRP注射も選択肢になります。
骨盤底筋治療で十分に改善しなかった方の中には、次のような理由からスリング手術をためらう方もいます。
スリング手術がためらわれる理由
- 腟壁や下腹部、脚の付け根などを切開することに抵抗がある
- 身体の中に人工物を入れたくない
- 人工物による将来的な合併症が心配
- 麻酔や手術による身体への負担を抑えたい
- 入院や術後の安静に必要な期間を確保できない
- 手術が必要になるほど重症ではないものの、日常生活に支障がある
このような方には、手術と比べて身体への負担を抑えながら、尿道粘膜や尿道括約筋へ働きかけるPRP注射も選択肢になります。
出産後・閉経後の尿もれに対するPRP注射

特に閉経後は、薄くなった尿道粘膜と尿道括約筋の両方を治療標的にする考え方が重要です。
PRPは、患者さん自身の血液から作製した多血小板血漿を使用する治療です。血小板には、組織修復、血管新生、コラーゲン産生などに関係する複数の成長因子が含まれています。尿道へPRPを注入することで、次の作用が期待されます。
PRP注射で期待される作用
- 尿道粘膜・粘膜下組織の状態や厚みを改善する
- 尿道内面の密着性を高める
- 尿道括約筋や周囲組織へ働きかける
- 尿道を閉じる機能を高める
女性の腹圧性尿失禁やISDを対象とした臨床研究では、尿道へのPRP注射後に尿漏れの程度、尿道抵抗、生活の質が改善したという結果が報告されています。
尿道充填療法とPRP注射の違いや臨床研究については、こちらで詳しく解説しています。
関連記事:尿失禁の注入治療とは?
PRP注射の特徴
PRP注射には、次のような特徴があります。
- 自分自身の血液から作製する
- 人工物を体内へ留置しない
- 腟壁や下腹部を切開する必要がない
- 手術と比べて身体への負担が少ない
- 入院を必要とせず、日帰りで治療できる
- 効果が不十分な場合や低下した場合に繰り返し治療できる
- 尿道粘膜と尿道括約筋の両方を治療標的にできる
そのため、手術が必要になるほどの重症ではないものの、尿漏れによって日常生活に支障がある方や、切開、入院、人工物の留置を避けたい方にとって、PRP注射は検討できる選択肢の一つです。ただし、PRPはすべての患者さんに効果が約束されている治療ではありません。康静会グループでは、尿漏れがある方すべてへ一律にPRP注射を行うのではなく、尿漏れが起こる状況やこれまでの経過などを確認したうえで、治療の適応を判断しています。
まとめ
出産後・閉経後の尿もれは我慢するしかない症状ではありません。
出産後の尿漏れには、妊娠・分娩による骨盤底筋、支持組織、神経への影響が関係します。閉経後の尿漏れには、加齢による筋力低下だけでなく、女性ホルモンの減少による尿道粘膜の菲薄化や、尿道括約筋の機能低下が関係します。
まずは骨盤底筋治療が基本ですが、十分に改善せず、日常生活に支障が残る場合には、スリング手術が治療選択肢になります。一方、身体を切開することや人工物の留置に抵抗がある方、入院や術後の安静期間を確保できない方、手術が必要になるほど重症ではないものの尿漏れに悩んでいる方では、日帰りで行えるPRP注射も検討できます。
治療をご検討中の方は、下記のボタンから関連ページをご覧ください。